エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
ここは一階、外来の相談室。

雅樹は明日入院予定である七十代の女性患者と、その息子と娘に、脳腫瘍切除の手術方法や術後の回復過程などを説明し終えたところだ。

「他になにかご質問は?」

白い楕円のテーブルの向かいに問いかけたら、息子と娘は「ありません」と答えたが、患者本人が「どこを切るんでしたっけ?」と言い出した。

「お袋、それは三回も聞いただろ。絵まで描いてくれたのにまだわからないの?」

「そんなこと言ったってね、歳だから仕方ないだろ」

「お母さん、家に帰ってから私がもう一度教えるから。先生だって忙しいのに、一時間も付き合わせて……」

患者の娘が申し訳なさそうに雅樹を見る。

けれども雅樹は少しも迷惑に思っていない。

説明してもなかなか理解してもらえないのは、高齢患者によくあること。

今日も長くなるだろうと予想してスケジュールを組んでいるので、まだ時間に余裕があった。

「構いませんよ。納得してから手術を受けていただきたいので何度でもご説明します。絵だとわかりにくいなら、模型にしましょうか。ここからこう、メスを入れまして――」

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