エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
ひとりになった室内で、雅樹は噂の出所を考える。

(理事長、院長、事務長と給与担当の事務職員、外科医長に看護師長、知っているのは六人だけ。そのうちの誰かがバラしたということか。いや、ひょっとしてアレか……?)

雅樹が思い返していたのは、先月の医局でのこと。

時刻は零時を回り、雅樹が帰ろうとしたら、珍しく遅くまで残っていた外科医長に話しかけられた。

『結婚生活はどうだい?』と。

夜勤の医師は仮眠室へ行った後だったので、医局にはふたりしかいなかった。

それで、穏やかに暮らしていることを少し話したら、華衣が医局に入ってきた。

研修中である彼女は、遅くまで残って勉強していることが多い。

華衣が来たので話題をすぐに別のことに変えたのだが――。

(聞かれていたのか? いや、華衣がバラしたという決めつけはよくない。聞いていたなら、結婚したのかと問われるだろうし、違うか……)

結論は出せなかったので、別の心配をする。

(皆に知れ渡ってしまったことを、友里は知っているだろうか?)

雅樹が病棟にいるのは回診や、術後の患者の様態が気になる時、処方箋を書く時くらいだ。

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