エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
ナースステーション内に長く滞在することはない。

従って、友里に気を配ってあげる余裕は残念ながらなかった。

(嫌な思いをしていたら……)

半年間は結婚を秘密にしてほしいという友里のお願いを聞いたのは、その方がいいと雅樹も思ったからだ。

若い女性職員に好かれている自覚はある。

はしゃいだ声で話しかけられたら気づかないわけがなく、デートを申し込まれたことも過去には数回あった。

離婚の可能性を考えて秘密にしたいとの友里の要望であったが、雅樹としては離婚するつもりがないので、嫉妬から彼女を守る意味合いで隠してきた。

それなのに、病院職員間で知れ渡っているとは……。

嫉妬の目にさらされているのではないかと、雅樹は焦りだした。

自宅では笑顔で出迎えてくれる友里が、陰で泣いている気がしたのだ。

病棟に行こうと立ち上がったら、ノックの音がした。

返事を待たずに入ってきたのは、華衣だ。

「香坂先生、少しお話いいですか?」

彼女の手には勉強用のいつものファイルが持たれていた。

雅樹が指導医なので、質問には答えてあげたいところだが、今の優先事項は友里のフォローである。

< 81 / 121 >

この作品をシェア

pagetop