エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
「病棟に行く。後にしてくれ」

ドアノブに片手をかけたら、横から華衣に腕を掴まれた。

「やっぱり友里さんの様子が気になるんですか?」

雅樹の心臓が嫌な音を立てる。

「やっぱりとはどういうことだ……?」

雅樹に鋭い目で見られても華衣は動じない。

それどころか、赤い唇の端が嬉しげに弧を描いた。

「私、香坂先生に謝らなくてはいけません。ふたりのご結婚のことで」

「医局で聞いていたのか」

「たまたまです。秘密にされていたんですね。女性職員の嫉妬から友里さんを守るためですか? そうとは知らず、おめでたいことだと思って、病棟内で友里さんを祝福してしまいました。すみません」

雅樹は額に手をあてた。

華衣に話を聞かれたかと危ぶんだあの時、確認して口止めしておけばよかったと後悔する。

そして、友里へ心配が強まった。

ポーカーフェイスが崩れて焦り顔になった雅樹を、華衣がじっと見ている。

その眉がややハの字に傾いていた。

けれども雅樹を気遣っているわけでも、申し訳ないと思っているわけでもなさそうだ。

どこか不満げな声で華衣が言う。

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