エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
「クラークが完全二人体制に戻される話が進んでいるそうですね。理事長令嬢だから優遇されているんだって言われてますよ。半分は嫉妬でしょうけど」

「ひとりでこなせる業務量ではなかっただろう。友里のせいじゃない」

「私に言われましても。周囲がそう思っているんです。それに加えて、女性人気の高い香坂先生の妻にもなった。嫉妬は以前の二倍です。友里さんの近くでヒソヒソと。あれじゃ陰口にもなっていません」

友里への嫉妬の実態を初めて知り、雅樹はショックを受けていた。

「俺のせいなのか……?」と独り言として呟いたら、華衣が頷き、その唇が再び弧を描く。

「間違いなく原因は香坂先生との結婚です。友里さんが可哀想。そろそろ解放してあげたらどうですか? 引く手あまたの先生なら、この病院にこだわらなくてもいいでしょう。将来的に開業した方が、思い通りの経営や診療ができるはずです」

華衣はそれだけ言うと、会釈して、相談室から出ていった。

廊下を歩く彼女の軽い靴音が遠ざかるのを聞きながら、雅樹は唇を噛む。

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