エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
(俺は、この病院がほしくて友里と結婚したわけじゃない。友里だから、好きになったんだ……)

白衣の胸ポケットで、病院用の携帯電話がピリリと鳴る。

電話に出ると、先ほどの外来看護師、佐々木からで、外来通院している患者が頭痛を訴えて来院したから診てもらえないかと言われた。

友里の様子が気になるが、頭痛を軽くみてはいけない。

外来の診療時間はとうに過ぎていても、雅樹は「わかりました」と了承した。

相談室を出て、待ち合いのベンチシートの間を足早に進みつつ、友里を想う。

(出会ったのは、理事長室だったな。一年ほど前か……)



あの日、雅樹は、手術予定の患者のことで報告があり、理事長室を訪れた。

すると室内には見知らぬ若い女性がいて、娘だと理事長に紹介された。

(父親に似ず、綺麗な顔立ちだ)

友里への第一印象はその程度。

理事長から、冗談交じりに友里への関心の程度を探られたが、(やめてくれ)と内心思っていたほどであった。

それなのに、クラークとして働く友里を見ていると気になった。

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