エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
仕事ができずに困っていたのだろう。

もうひとりのクラークの山内や看護師たちは、田中の長話を『後で聞かせてもらいますねー』と簡単に終わらせるのに、友里はそれができないようだ。

(お人好しだな……)

雅樹が病室を回診し、戻ってきてもまだ田中に捕まっていたので、見かねた雅樹が止めに入った。

『田中さん、随分と立ち話をされているようですが、そろそろ病室に戻って休んでください』

『あら、先生。そうですか』

やっと田中から解放された友里はホッとした様子。

『香坂先生、ありがとうございます』

お礼を言った時の笑顔が可愛くて、雅樹は自分の手で守ってあげたくなった。

友里に惹かれたきっかけと言えば、それだろうか。

自然と好きになった……と言った方がいいのかもしれない。

そんな頃、理事長からこんな打診があった。

『私ももう年だから後継者を決めておきたい。香坂先生、いずれこの病院をもらってくれないか?』

雅樹は金儲けや名声に興味はない。

医師としてひとりでも多くの患者を救うこと、それが宿命だと思っている。

その舞台は、国内であっても海外であっても、雇われでも開業でも構わない。
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