エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む

なので理事長の話を条件付きで受けることにした。

その条件とは――。

『いいですよ。理事長先生が引退された後、この堂島記念病院の経営を引き受けます。ただし、ひとつ頼みがあるのですが』

『なんだね?』

『友里さんを妻にください』

数秒の間が空いた後に、理事長が『願ったりだ』と了承した。

周囲は誤解しているようだが、雅樹と友里の結婚は、理事長が強引に勧めたものではなく、雅樹からの申し出で決まったこと。

政略結婚だと言われても、雅樹は間違いなく友里を愛していた。

それなのに――。

『友里さんが可哀想』

先ほど華衣に言われたことが心に突き刺さっている。

(俺は愛する妻を苦しめているのか……?)

友里の元にすぐに駆けつけることもできず、雅樹はため息をついた。

医師の本分を疎かにしてはいけないと、なんとか気持ちを切り替えたが、眉間に寄った皺を解くのを忘れたまま診察室のドアを開けたのであった。



普段の雅樹は、職場では私物の携帯電話を鞄の中に入れっぱなしにしている。

けれども今日は夕方、友里にメールをした。

早く帰るから一緒に夕食を食べようという内容である。

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