エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
脳神経外科は六階建ての建物の五階、西側にあり、医師が四人、看護師が十七人、看護助手が四人と病棟クラークがふたりという体制だ。

白いブラウスに紺色のタイトスカートとベストを着た友里は、クラークの身分証を首から下げ、ナースステーションのカウンター前に立っている。

今日で勤務は三日目で、指導してくれるのはウェーブのついたミディアムヘアが似合う、山内(やまうち)という三十八歳の女性クラークだ。

百五十センチ弱の小柄な山内が、百六十センチのスラリとした体形の友里を見上げて、仕事を教えてくれる。

「という具合に、パソコンから依頼してくれると助かるんですけど、まだまだ手書きの伝票も多いんです。それを入力するのもクラークの仕事です」

「はい」

「採血のオーダーは、ここをクリックしたら見ることができます。看護師さんが採血したスピッツと照らし合わせてから検査部に――」

覚えなくてはならないことが山ほどある。

やり方だけではなく、耳慣れない専門用語にも苦心していた。

つきっきりで教えてもらえるのは最初の一週間だけで、その後はひとりでこのカウンターに立たなければならないこともあるらしい。

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