エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
華衣から逃げるように片足を引いただけだ。
華衣が応援を求めたから、看護師ふたりが迷惑そうな視線を友里に投げてくる。
「また? いい加減にしてほしいわ。普通ならとっくにクビだよ」
「香坂先生が甘やかしているからじゃない?」
そのような陰口がしっかりと耳に届いて、友里をさらに委縮させる。
(どうしよう。このままだと雅樹さんの評価まで下げてしまう。私のせいじゃないと言わなければいけないのに、声が出せない……)
笑みを浮かべて食事伝票を探している華衣が怖かった。
(雅樹さん、助けてください!)
雅樹の顔を思い浮かべて心の中で叫んだら――。
「探す必用はない」という低い声が響いた。
皆が一斉にナースステーションの出入口に振り向く。
するとそこには、上下とも手術着のまま着替えていない雅樹が、息を切らせて立っていた。
険しい顔の雅樹がつかつかと歩み寄り、友里を背中に庇うようにして、華衣と対峙した。
華衣は一瞬、怯んだが、すぐに笑みを取り戻して爪先を出口に向けた。
「探さなくていいんですね。それなら私は医局に戻ります」
雅樹が横から腕を突き出し、華衣の行く手を塞いだ。