エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
「待て。伝票を置いていけ」
「なにを仰っているんですか?」
「とぼけても無駄だ。友里がなくしものやミスをしたと気づいた時、必ず君が近くにいる。おかしいだろ」
友里はハッとしていた。
昨夜、雅樹が事細かに事情聴取してきたのは、犯人を絞るためであったのかとやっと気づいたところだ。
(雅樹さんは昨日から華衣先生が怪しいと疑っていたんだ。それでオペが終わってすぐ、私の様子を見にきてくれた。心配をかけて申し訳ないけど、嬉しい……)
華衣は明らかに焦り顔をしていた。
気づけばナースステーション内に人が増えている。
昼休憩を終えて戻った看護師が十五人と、看護師長もいた。
雅樹と華衣以外の医師もふたりやってきて、朝礼でもないのに、今日出勤の病棟職員がほぼ全員集合していた。
「奥さんを庇いたいからって、私のせいにしないでください」
虚勢を張って言い逃れようとしていた華衣であったが、雅樹に睨まれて肩を揺らす。
「出せ。出さないなら白衣のポケットを探るぞ」
そうまで言われてやっと、華衣は観念したようにポケットから皺くちゃな食事伝票を取り出した。