エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
雅樹がため息をつき、友里は雅樹の手術着の背側を掴んで、悲しい目を華衣に向ける。

(私に嫌がらせをしたということは、華衣先生も雅樹さんのことが好きだったのかな……)

ナースステーション内で、大きな声で結婚を祝福したのはきっと、友里が嫉妬にさらされることを狙ったためなのだろう。

『可哀想』という言葉も、結婚を後悔させるためだったのではないだろうか。

けれども友里は、されたことを怒るより、華衣に申し訳なく思う。

(私がお父さんの娘でなかったら、雅樹さんは結婚相手に選ばなかったと思う。そうしたら、華衣先生の恋が実ったかもしれないのに。看護師さんたちも……)

ナースステーション内はざわついていた。

「悪口言うだけにしとけばいいのに。隠すのはさすがにナシでしょ」

「駄目だけど、気持ちはわかるな。なんでも持ってるお嬢様のくせに、香坂先生まで持っていかれたら悔しいじゃない」

華衣を非難する者、同情する者、反応はそれぞれだ。

病棟の責任者である看護師長が厳しい顔をして華衣に近づく。

「華衣先生は私と一緒に来てください。外科医長や院長も呼んで、説明してもらいますよ」

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