蒼月の約束

次に目を覚ました時には、王子の姿はなく、いつの間にか部屋に入って来ていたリーシャたちが、食事の支度をしてくれていた。


「よく眠れた?」

大きなあくびをしながら、エルミアはサーシャが渡してくれたガウンを羽織りながら聞いた。


「はい。王子が、昨日一日、仕事することを禁じられましたので。ゆっくり休ませて頂きました」

リーシャが、血色の良い顔で明るく言った。

目の下のくまも取れ、三人ともかなり元気そうに見える。

「エルフは、回復が早いよね…」

この前のドワーフ洞穴事件の時も、手首に縄の痕がしばらくの間残っていたのはエルミアだけだった。


今回も体のところどころに浅い傷がつき、みすぼらしく見える。

「あとで、ゆっくりお風呂に入りましょう」

すっかり元気になったサーシャが、エルミアの表情を読んで言った。

「お花浮かべよう!傷に効くやつ!」

ナターシャが挙手した。

それを見ながら、エルミアは皆が元気になって本当に良かったと心から思えた。

「王子は?」

準備が整った朝食を食べながら、エルミアは聞いた。


いつの間にか習慣になっているエルフ三人は、エルミアの食事の用意をするという自分たちの仕事が終わると、自然とソファーに腰かける。

定位置であるエルミアの隣に座り、リーシャは言った。


「かなり回復されています。ミアさまといる時は、いつもぐっすり眠られるようです」

サーシャとナターシャが、すぐに反応するのが目に見えて分かったエルミアは、口をもぐもぐさせながら慌てて言った。

「私は、王子といると、やっぱりいつも予言を聞くの」

「今回も何か?」

エルミアにお茶のお代わりをつぎながら、リーシャが言った。

「でも最近、どんどん聞こえづらくなってて。今回聞き取れたのは、海って言葉くらい」

「海…ですか」

それだけでは、何の役にも立たないことが分かっているエルミアは続けた。

「でも、精霊の書は手に入ったから、大丈夫よね?」

ふとエルフ三人の顔が曇った。

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