蒼月の約束
第二十六話
フードのエルフとの戦いでかなり酷い傷を負ったのか、完治の早いエルフであるにも関わらず、王子はしばらくの間、またもや自分の寝室に王宮の医者以外、誰も寄せ付けず、何日かが過ぎた。

「王子は大丈夫なの?」

ある朝、エルミアは短髪姿までも美しいリーシャに聞いた。

リーシャはエルミアにお茶を注ぎながら首を横に振った。

「部屋に入らせて頂けないので分かりません。ですが」

リーシャは続けた。

「相手がエルフの弱点を熟知していたことは確かです。お二方ともそこを狙われていました。一命を取り止めてはいますが、時間がかかるかも知れません」

しかし、その日の夜、驚いたことにグウェンがエルミアの寝室をノックした。

「グウェン!もう大丈夫なの?」

見たところ、包帯もギプスもなにも付けていないグウェンは無表情のまま頷いた。

「はい。ご心配をおかけしました。王子がお呼びです」

王子は未だにベッドに寄りかかったまま、青い顔をしていたが話せるほどには回復したようだ。

「だ、大丈夫…なの?」

ゆっくりとベッドに近づき、エルミアはベッドに横たわる王子を見つめた。

「そんな顔をするな。問題ない」

そう言ってエルミアの手を掴んだ。

それから他のエルフたちに近づくように手で合図した。

「花は?」

「こちらに」

リーシャがクリスタルのような古代花を王子に渡す。

王子は花を見てから、リーシャの髪型に目を移した。

「ご苦労だったな」

王子の瞳にも苦しさが浮かんだのをエルミアは見逃さなった。

「いえ」

リーシャはそれだけ言うと、一歩下がった。

「妙ですね」

グウェンがエルミアの後ろで呟いた。

「敵は、花を奪わなかった。すぐ近くにあったのに」

それを聞いた王子は頷いた。

「ミアを狙う様子も全くなかった」

「一体、何が目的だったのでしょう?」

エルミアは王子の手を見つめながら、この前のことを思い出そうと頭を回転させる。

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