蒼月の約束

その日の夜、また悪夢を見た。

今度は、コロボックルの集落であるフキ畑が真っ赤な炎に包まれている夢だ。

泣き叫ぶ小さなコロボックルたち。

そして勇敢にも火を消そうと奮闘する男のコロボックル。

しかし、燃え盛る地面から突然巨大な蔦が生え、次々と逃げ惑う小人たちを捕まえて行く。

くぐもった声が地面の奥から地響きのように響き渡った。

〈予言の娘に手を貸した反逆者を差し出せ〉

―やめて!―

夢の中でエルミアは叫んだ。

しかし、その声はコロボックルたちの悲鳴と〈女王に歯向かう者には天罰を〉と叫んでいる地中の生き物によってかき消されていく。

―もう、やめて!―

〈反逆者を差し出せえええ!〉





「やめて!」

エルミアはそう叫びながら飛び起きた。

またもや流れる程の汗をかいていた。

部屋の中は真っ暗で、しんと静まり返っている。

エルミアは荒い呼吸を整えながら、ベッドわきに置いてある水差しに手を伸ばした。

震える手でゆっくりと水を注ぐが、上手くいかずこぼしてしまう。

かろうじて入ったコップの水を一気に飲み干した。

「夢…ただの夢…」

自分に言い聞かせるようにエルミアは呟いた。

「リーシャが無事だって言ってたじゃない。大丈夫…」

そう口に出すとちょっとだけ恐怖が和らいだ気がした。

コップをテーブルに戻すと、ふとアゥストリが作ってくれた笛が目に入った。

エルミアはそれを掴み、大広間にある大きなバルコニーへと向かった。

宮殿内がしんとしているのを見ると、まだ眠りについて数時間しか経っていなかったのだと気づいた。

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