蒼月の約束

「ミアさま、落ち着いて下さい。今、リーシャさまが、お二方が無事かどうか見に行っていますから」

サーシャの手は休まずエルミアの背中をさすり続けている。

少しずつ体の震えが収まっていくのが分かった。

「女王は…私を助けた人たちを捕まえる」

スカートの裾をぎゅっと握りしめながら、言った。

セイレーン、トック、アゥストリの苦し気な悲鳴がずっと耳に残っている。
そして、冷酷な女王の笑いも。


「私…どうしたらいいの…」

「きっと無事です。とにかく、リーシャさまが戻って来るまでは待ちましょう」

そう口にしたサーシャの言葉は、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。




ナターシャが気持ちの落ち着くお茶と食べ物を持ってきたのと、リーシャが戻って来たのはほとんど同時だった。

「戻りました」

リーシャが頭を下げた。

エルミアは立ち上がり、リーシャに駆け寄る。

「ど、どうだった?二人は?トックは、アゥストリは無事なの?」

リーシャは頷いた。

「トックは無事です。しかし、アゥストリは…」

下を向きながらリーシャが申し訳なさそうに言った。

「エルフとは会いたくないと、顔を見せて頂くことは出来ませんでした。しかし、これを預かりました」

そう言って手渡されたのは、木で出来た横笛だった。

「これ…」

アゥストリが約束してくれた楽器だった。

これを渡してくれたということは無事だと思っていいのだろうか。

「良かった…」

エルミアはへなへなと床に座り込んだ。

「二人とも無事でした」

リーシャが床に膝をついて、エルミアに視線を合わせながら言った。

エルミアは頷いたものの、本当に心の底から安心することは出来なかった。

セイレーンは間違いなく女王に連れて行かれた。

そして、このままトックやアゥストリが無事という保証はない。

それに、王子を狙うレ―ヴの目的も分からない。

しかし、全ては「予言の娘」と呼ばれている自分のせいだ。

エルミアの心の奥に潜む不安が、考えるたびに増していった。




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