蒼月の約束
そう分かったのは、次の日の朝。

鳥のさえずりで目を覚ました時だった。

いつもであれば、朝ごはんは大事だと鬱陶しい程に主張してくる兄が、今日は静かだ。

ヘルガは体を起こし辺りを見渡すが、いつものように朝食のいい香りもしなければ、兄の大きな声も聞こえない。

物一つしない家の静寂さに嫌な予感がした。


…いや、ロダと出かけたのかもしれない。

ヘルガは頭を振り、裸足のまま扉を開けて外へ出た。

冷たい風が吹きすさび、ヘルガは無意識に体を震わせた。

そして声を失った。

昨日の晩に一体何があったのか。

家の周りは恐ろしい程に燃え焼かれ、黒々と変色していた。

そしてそこには、兄が以前言っていた王国の旗らしきものがあちこちではためいていた。

両親を失ったあの場所とそっくりだった。


なぜ、こんなことが…

ヘルガはそこに立ち尽くした。


兄が言っていたことを思い出す。

新王に代わり、王族を脅威にさらすであろう禁断の魔術を代々受け継いできているソー族は命を狙われ続けていると。

そして、純血以外は根絶やしにする法律が立てられて以来、混血狩りが行われてきている、と。


一体なぜ今。

村からも王宮からも遠い場所に住んでいる。

兄は毛皮を売りに行っている村には、身を隠して行っていた。

それに取引している相手も基本的には混血ばかりだったはずだ。


どうして、今。

こんな…


そしてふと、脳裏にロダの顔が浮かんだ。

「まさか…」

姉のように慕っていたロダがまさか裏切ったというのか…

胸のネックレスを固く握りしめる。

いや、そんなはずはない。

ロダは兄を慕っていた。
裏切るなんてことは絶対ない。


ヘルガは兄がロダと出会ったと言っていた村へと足を進めた。
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