蒼月の約束

ガタンと後ろから何かが倒れる音が聞こえて、エルミアは振り返った。

驚いたような顔をしたまま立っているリーシャに、エルミアは声をかけた。

「どうしたの?」

はっと我に返ったリーシャは慌てて、今しがた落とした花瓶を拾った。

「すみません。王子がお呼びです」

「王子が?」

リーシャに近寄ると、リーシャの顔がさらに青ざめているのが分かる。
明らかにさっきまでと雰囲気が違う。


「どうしたの?」

「図書室に来いとのことです」

「じゃなくて。リーシャ、大丈夫?」

2人で、王子の待つ図書室へと向かいながらリーシャの顔をのぞく。

「大丈夫です。すみません」

結局、原因を教えてくれないまま二人は図書室と呼ばれる塔に到着した。

その塔は、王宮本殿より少し離れたところに位置しており、遺跡跡のように崩れている。

夜にここに一人で来る勇気はきっとないだろう、と思いながらリーシャのあとについて黒く錆びた重いドアをくぐった。


「うわぁ…」


思わず感嘆の声が漏れた。

外観からは想像もできないような神秘的な光景が目の前に広がっていた。

円を描くように陳列された本は、塔の高い部分まで伸びており、どこにある本も取れるようにはしごや、階段がついている。

丸くかたどられた天井からは、自然光が入って来て本棚に反射してキラキラと輝いている

普通なら見えてしまうだろう、舞っている埃が全く目に入ってこないのにも驚きを隠せない。


「これは…人生で一番の図書室だ」


図書室と聞いて学校の、シンプルかつ勉強机があるものを想像していた。

いい意味で裏切られたと天井を見上げながら、気分が高揚しているエルミアは、床に座っている数人のエルフに気がつかなった。


「来たか」

突然足元で、声がしてエルミアは飛び上がった。


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