蒼月の約束
「先代から続く、冷戦状態なのです。
私たちエルフは、過去のことについて何も気にしてないのですが、それがまた気に障るのか、一方的に目の敵にされているようで。
一時は戦争まで持ち込まれるかという不安もありました。
宮殿の周りに呪いがかけられてからは、ドワーフと接触することは全くなくなったのですが…」


話を聞きながら、エルミアは首を傾げた。

「でも、今回その呪いの森を通って来たってことだよね?どうやって?」

サーシャは「確かに」と手を顎に添える。

「ドワーフには呪いが効かないとか?」

「いえ、それはあり得ません。ドワーフの中にも女王の術中にはまった者はいますから」

「それじゃあ、彼らが来た理由は?」

しかし今度は、首を横に振るサーシャ。

「王子に口止めされているので言えません。それから、謁見の間にも近づくなと」

エルミアは、飲んでいたコップを静かに下ろした。

「何を隠しているの?サーシャ」

「言えません…」

下を向いて、スカートの裾を握っている。
言いたいが、「王子の命令なので」と我慢しているようにも見える。

「サーシャ、私が責任取るから」

「しかし、王子の命で…」

頑なに拒むサーシャに半ば尊敬のまなざしを向けながら、エルミアは立ち上がった。

「じゃあ、謁見の間だけは案内して」

「いえ、それも…」

「じゃあ、別の人に聞こうかな~」

どこかにエルフはいないかと、探すふりをするとサーシャは小さな声で「分かりました」と呟いた。

「少し覗いたら戻って下さいね。ドワーフと戦争状態になるのはどうしても避けたいですから」

不安の視線をよこしながら、サーシャは言った。

「分かってる。私だってそんなことになったら、責任とれないもん」

この時のエルミアは、謁見の間で何が待ち受けているのか、知る由もなかった。





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