蒼月の約束
「言いだしたのは、私なのに…」
次の日、王子を見送る形になってむくれているエルミアは門の前に腕を組みながら立っていた。
「ミアが勝手に外に出ないように見張っておいてくれ」
ひらりと白い馬にまたがりながら、王子は言った。
体重を感じさせない身のこなしに、世界が違う人だと思い出させられる。
「ちょうど、他の地域がどうなっているのか知りたかったところだ。
見回りも兼ねて行ってくるが、いつ何時女王が狙って来るか分からない。
ミアから絶対に目を離すのではないぞ」
リーシャ達に念を押し、馬の高らかな蹄の音を響かせながら、王子は側近のグウェンと、何人かの衛兵を連れて風のように走り去って行った。
その後ろの様子を、考え込むような面持ちで見守るエルミア。
「ミアさま、戻りますよ」
「外には出せませんからね!」
何かがひっかかる。思い出せそうで思い出せない。
白い馬、白い馬が何か…
「あ!」
突然大声を上げたので、近くにいた鳥が驚いて飛び去った。
「どうかされました?」
リーシャが声をかけた。
「思い出した!ペガサスの羽根!」
「ペガサス?」
「うん。この前、歌を歌っている時に頭の中に流れて来たの。
ペガサスの羽根って。確か…黄金の羽根って言っていたかな?」
そう呟いた瞬間、サーシャがエルミアの口をふさぎ、ナターシャが慌てて「しーっ」という仕草をした。
「ん…」
「とにかく、図書室へ」
リーシャに先導されて三人は、こっそりと秘密の隠れ家へと向かった。