蒼月の約束
第十二話
アゥストリに案内されたのは、ドワーフ村の真ん中に位置する茶色い三角屋根の小さな家だった。
ドワーフと、エルミアには申し分ない大きさの家だが、エルフ三人にとっては、またもや前かがみにならないと、ドアをくぐれなかった。
「ま、あがってくれ」
外観から想像できるような家の作りになっている室内は、所せましと色々なものが置いてある。
木で出来た壁には、動物の毛皮が貼り付けてあり、小さな本棚には、本だけでなく奇妙な置物も数点置いてある。
入ってすぐに目に着くのは、ど真ん中に置いてある大きな切り株のテーブルだ。
エルフのところにあるような綺麗に整えられた形ではなく、木そのままを横に切ったような凹凸を生かしたテーブルだ。
これまた丸太で出来た木の椅子に腰かけながら、アゥストリは言った。
「俺に何か用事があったんだろう?」
アゥストリの右隣に座りながらエルミアは頷いた。
見た目ほど座り心地は悪くない。
しかし、上半身より脚が長いエルフたちは、どう椅子に座っても脚のやり場がなく、結局横向いて座るしかなかった。
「精霊の書って聞いたことある?」
単刀直入にエルミアは切り込んだ。
アゥストリはすぐさま反応をするかと思ったが、首を傾げただけだった。
「いつぞやかに噂で聞いたことはあるが、本当に実在しているかは分からない」
「そっか…」
そこへアゥストリより一回り小さい同じ背格好のドワーフがやって来た。
先ほど、声をかけた時に悲鳴を上げたあの女性のドワーフだ。
「お茶です。先ほどは、ごめんなさいね~」
肩をすくめて、申し訳なさそうにドワーフは言った。
「知らない人が訪ねてくることなんて、ここ何年もなかったから…」
そう言って、エルミアの前に銀色のコップを置いた。
「いえ、こちらも驚かせてしまったみたいで…」
女性のドワーフを目で追いながら答える。
リーシャ達にもお茶を配ってはいるものの、どこか乱暴な渡し方だ。
しかし、リーシャ達は、その様子を気にすることもなく丁寧にお礼を言っている。