蒼月の約束
「じゃあさ…」

熱々のお茶をすすっているアゥストリに視線を戻して、エルミアは聞いた。

「太古と、カラスで思いつくものはある?」

さっぱりなんだよね、と呟いているエルミアをよそにアゥストリは勢いよく立ち上がり、ちょっと待ってろ、と言って、部屋から出て行った。

「大丈夫なんですか?ここにいて…」

先ほどまで恐怖の洞穴にいて、やっと抜け出したと思ったら長年の敵対関係であるドワーフの家にいる。

この状況に頭が追い付いていないサーシャが言った。

ナターシャは、やっと泣き止んだというのに、またもや半泣き状態である。

「すぐ、帰るから待ってね」

エルミアが、隣にいるナターシャの頭を撫でた。


玄関に一番近いリーシャは、エルミアの真向かいに座りながら、出口の方をちらちらと見ている。

何か起きたらすぐに脱出できるように、気を抜かないようにしているようだ。



「おそらくだが…」


大きな古い本を抱えて、アゥストリが戻って来た。

厳重にベルトがしてあり、そこには鍵までついている。自分の椅子まで来ると、それとどしんとテーブルに置き、自分の首にかけていた鍵を取り出した。

「凄い本だね…」

思わず目が釘付けになる。

埃が被っており、ところどころ日光で日焼けし茶色く変色している。

アゥストリは、ページを破らないよう、慎重にめくっていく。

「お、あったぞ。これだ、これだ」

アゥストリが、目的の個所を見せてくれたが、全くもって解読できない。

隣のナターシャが小さな声で言った。

「ドワーフの昔の言葉で書かれてるの。私たちにも読めないようにしてあるんだと思う」

ここに来て初めて、アゥストリがエルフに向かってニヤリと笑った。

「いいか。太古の森奥ずっと深くに、鴉の社という場所が存在する。
そこで心から祈りを捧げた者には、必ず幸運が訪れると言われている」

「う~ん、何か、求めている情報と違うような…」

エルミアが腕を組んだ。

「それは、どこにあるの?」

「地図が書いてあるな。
ここから、まっすぐ北へ向かい、右に一回、左に一回曲がる。
ずいぶん簡単な道しるべだな。でもたどり着くには、1日はかかる」


しばらく沈黙が流れた。

アゥストリがページをめくる。

「注意書きだ。その森には強力な保護呪文がかけられており、森が人を選別し、それに選ばれた者しか入ることを許可されない」


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