幻想館-白雪姫-
私は自分が置かれている状態を否定したくはなかった。



「ママの記憶は私から消えていく・・・でもママは私を忘れないで」



「わかったわ、あなたの事は忘れない」



由希奈がそう返事をすると、少女は笑顔を見せた。



「もう時間だから・・・ママに会えて良かった・・・
最後に私のお願い、聞いてくれる?」



キラキラした瞳の中に由希奈が映っている。


「お願いってなにかなぁ?」



「最後に私をギュッと抱きしめて欲しいの・・・ママの温もりは今だけしか覚えていられないから」



「うん、いいよ」



由希奈がそう言うと少女は思いっきり抱きついた


由希奈はそっと両腕を伸ばし、少女を抱きしめた。


その時、少女は耳元で囁いた。



・・・ママ、ありがとう・・・・・・



そんなに長い時間ではなかったのに、少女を抱きしめた感覚が残った。



少女はいない。

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