幻想館-白雪姫-
自分の子宮の中で育っていた生命体。


「ここからあなたは、堕胎したんだよ。あなたはそれを見ていられるかな?
僕が掻き出されて死んでいく様子を・・・」



言葉が出なかった。



ただ涙が溢れるばりで・・・。



胎児は光の綿に包まれて、また先ほどの少年の姿に戻った。



「驚かせてごめんなさい。でも、僕の存在を知って欲しかったんだ・・・」


少年は手を差し伸べて美奈を起こした。



美奈は初めて少年の手を握り返した。



「ごめん・・・なさい」



その言葉に持っていた手鏡が大きな音をたてて割れた。



砕け散ったかけらは涙となって消えて行った。




少年は笑顔で美奈の顔を触った。


「良かったね、優しい気持ちが少しでも取り戻せたから、あなたは魔境から出られるよ」


「でも、私は取り返しのつかない事を・・・」


「もう、泣かないで。
いつかまた、あなたに新しい命が宿ったら今度は大切にしてくれれば、それでいいよ」



美奈は少年を引き寄せ抱きしめた。



「それから、もう一つお願いがあるんだ・・・・・・。」



少年は耳元で囁く。



美奈は少年の声を熱心に聞いた。



柔らかな光が、無空間を貫き少年はその光に導かれるように彼女から離れた。


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