妹を溺愛する兄が先に結婚しました
「ただいまー」


ソファにもたれかかっていた私の耳に兄の声が届いた。


もう夕飯の時間はとっくに過ぎている。


「……あれ、結咲だけ?」


「お母さんはお風呂、お父さんは飲んで帰るって。……ゆかなさんは連絡ないから仕事じゃない?」


リビングに入ってきた兄に視線を合わせず答えた。


トントンと足音がこちらに近付いてきても、視線はそのまま。


「結咲。今日、日向と会ったんだって?」


そう声をかけられて、ようやく兄の方を向いた。


ソファのすぐ後ろに立っていた兄は、無表情だった。


「会ったよ」


「なんであんなところにいたんだ?誰と一緒にいた?」


急な質問攻めにあって、ついムッとする。


「……どうせ日向さんから聞いたんでしょ」


「聞いてない。だから結咲に聞いてる」


「私が誰とどこにいたって──」


「結咲が誰とどこで何をしているか、俺には全部話せ」


言い終わる前に、兄が言葉を被せてきた。


“話せ”なんて命令口調。怒っている時じゃないとしない。

でも今は、怒っている感じがしない。


わからない。

……私、お兄ちゃんがわからない。



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