妹を溺愛する兄が先に結婚しました
しかし。


「あ……」


という漏れたような言葉が聞こえて、顔を上げる。


出ていったと思っていた先輩は、まだドアの前で立ち尽くしていて。


その先に人影が見えた。



……誰か、いる?


先輩が後退りし、私は立ち上がった。



────なっ!


そこにいた人物に、目を丸くする。


「なにしてるんだ」


突き刺すような言葉。


険しい表情で佇む兄がいた。



ふと、目が合って。


兄は目を見開いた。


……あ。


私は急いで涙を拭く。



だけど、今にも掴みかかりそうな兄の声が響いた。


「菅原!」


それでも掴みかからなかったのは、教師という立場を理解しているからだと思う。


「お兄ちゃん、違うの。私、何もされてないから」


「……手は出してませんよ」


兄が握り拳を作って耐えているのがわかる。


「俺が兄に変わる前に、出ていけ」


そう言われて先輩は、少しだけ満足そうな顔を見せて出ていった。



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