ここではないどこか

「めっちゃ食べたぁ!」

 誰よりも食べていた瑞樹くんが幸せそうな声をあげた。あれだけ大量に作った料理は、育ち盛りのピークは過ぎたであろう彼らの胃袋の中に見事に収められた。ここまできれいに食べてくれると嬉しいな。いや、作ったのはほとんど……98%ぐらいは仁くんだけども……!

「片付けはみんなでやるぞー」

 仁くんの掛け声にみんなが「はーい」と元気よく返事をして、お皿をシンクに運ぶ。なんか幼稚園みたいなんだけど……とおかしいやらかわいいやらで、頬が緩んだ。

「仁くん、お皿は予洗いした方がいいよね?」
「そうだね、一応。香澄さんがしてくれたやつを俺が食洗機に入れていくよ」
「うん、わかった」

 あれから仁くんと変な雰囲気になることもなく、やっぱりただ単に褒めてくれただけなのかな?とほっと安心していた。
 私は自分の八方美人な性格をよく理解している。特に好意を無下に断ることは昔から苦手としていた。ていうか、仁くんが私に好意を寄せてくれてるなんて……おこがましいにも程があるか。と己の自意識過剰さを恥ずかしく思い、心の中で仁くんに謝った。


「ねぇねぇ。仁くんと香澄さんってお似合いじゃない?」

 シンクの前に並んで食器を片付けている2人を見て、智宏が純粋な感想を投げかける。

「智宏くんって割と恋愛脳なんだね」
「まーたそうやって酷いこと言うー、瑞樹は」

 瑞樹の辛辣な言葉に傷ついたと、智宏は泣き真似でアピールをした。

「ごめんて」

 智宏の背中に手を回し、小さい子をあやすようにトントンと背中を叩く瑞樹に、どっちが年上だかわからないな……という感想を抱いた。

「まぁ、仁くんは香澄さんのこと気に入ってるんじゃない?ねえ?」

 不意に向けられた瑞樹の視線に、しまった、と思った。今俺は確実に緑の目をした怪物になっていたからだ。

「俺は恋とか愛とか、そういうの分からないからなぁ……」

 咄嗟に目の色を無くし、曖昧に微笑んだが、鋭い瑞樹のことを誤魔化せただろうか。

「あぁ。透くんって初恋まだだって言ってたもんね」

 努めて明るい声音を出した瑞樹の視線は俺を探るように見つめていた。
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