オスの家政夫、拾いました。2.掃除のヤンキー編
成はしばらく黙って、そのまま立っていた。何も言わず、ただ彩響の目を見つめる。怖いけど、心臓の音がどんどんうるさくなるけど…彩響は瞳をそらさず、まっすぐ成を見つめた。

どれだけ時間が流れたんだろうか。短い時間が永遠のように感じる。やがて、成が目を閉じ、深く深呼吸をした。その行動の意味が分からず、ただ待っていると、成が彩響の手を取った。

「…あの日、俺がマンションを出た日、言おうと思ったんだ」

握った手に力が入る。その感触に、少しずつ気持ちが落ち着くのを感じる。成は何かを言おうとして、又やめて、それを数回繰り返した後、やっと話を続けた。


「いや、その前から何度も言いたかったよ。彩響のことが気になって、ずっと見ていたくて…でも、俺には分からなかったよ。俺がどうした方が、お互いの為になるのか。だから結局何も言わず、そのまま去って、連絡もわざとしなかった。あんたの声を聞いたら、すぐにでも駆けつけたくなると分かっていたから」

「それは…つまり…」

「ていうか、いい加減分かってくれよ。もうとっくに気づいているんだろ?」


そこまで言って、成が手を伸ばし、指先で彩響の頬に優しく触れた。最初は指先で、そして徐々に触れる面積を増やしていく。流れるように手を動かして、自然と髪の毛に触れる。


「最初は、ただの顧客だった。どこか俺に似ていて、助けてあげたいと思った。でも、一緒にいて、あんたが徐々に自分の人生を考え直すのを見て…少しずつあんたに惹かれ始めた。必死で前に進むあんたが、とても素敵で、美しいと思ったよ」


真っ直ぐな褒め言葉に顔が赤くなる。それでも、素直に嬉しい。好きな人からの褒め言葉は、何度聞いても飽きない。


「…いつも強がって、いつも平気そうに振る舞ってるけど、俺は知っている。あんたがどれだけ必死で努力して来たのか、どれだけ涙を堪えてきたのか…。そんなあんたを隣でずっと見守って、好きにならない訳がない」

「成…」

「俺、ずっと考えていたんだ。あんたは俺に、「夢を追って欲しい」と言った。あんたが頑張っていたから、俺もそれに相応しいことをしないとと思っていた。あだから俺も、自分が望む未来を、自分で探さなきゃいけないと思ったよ。でも…」

「…でも?」

「でも、違った。俺が本当に望むことは、そこにはなかった」


少しずつ、顔が近づく。まるで何かに引っ張られたように、徐々に二人の距離が近くなる。熱い視線から逃れられず、彩響は呼吸を止めて成を見つめた。息が当たるくらいの距離で、成の言葉は続いた。


「離れて、悩んで、そして今日あんたに会って…。やっと答えを見つけた。俺の夢は、俺の未来は…遠い所にあったわけじゃなかった。ずっと側にあったけど、臆病な俺がずっと見てみぬふりをしていたんだ。だから、もうこれからは絶対離さない。何があっても」


これまで何度も言いたくて、でもやはり飲み込んでしまったその言葉。

成が深く息を吸う。そこからつながる言葉に、彩響は喜びの涙を必死で堪えた。


「…俺、彩響が好きだ。だから、側にいたい。あんたこそが、俺の未来なんだよ」
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