冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~

脳内で昨夜のことが勝手に再生され、再び肌が火照り始める。そんな澪を匠馬は舐めるように見ていた。

「あの、離してください」

恥ずかしくて、潤んだ目で抗議する。手はシーツに縫い留められ、抵抗できない。そうこうしているうちに、澪の体は昨夜と同じように桜色に染まって行く。

昨夜と違ってもう明るいというのに。羞恥心でどうかなってしまいそうだ。だが匠馬は離そうとせず、せめてもの抵抗とばかりに、澪は顔を背け唇を食いしばった。

「クるな、その顔」
「え?」

だが逆に匠馬を煽ってしまったらしい。そのことに澪は全然気がついていないが。

(クルとは、どういうことだろう)

「今日のところは勘弁してやる。お前のことだ、そう言うだろうとは予想はしてた。それに、忘れたいとは言っていたが、そう簡単に忘れられるものじゃないよな」
「……そう、ですね」

その問いに、澪は曖昧に頷く。

お金が絡んでいるんだ。そう簡単には忘れられない。むしろうやむやにしはいけない問題だ。匠馬には、さすがにお金のことは言えなかった。

「じゃあ、長期戦で行く」

くしゃっと髪を乱し、くぐもった声でつぶやくと、匠馬はシャワーを浴びに行ってしまった。ベッドに取り残された澪はその背中を追いながらぽかんとする。

(さっきからくるとか、長期戦とか、何の話だろう)

もしかして、来期のリゾート開発の計画のことだろうか。いや、きっとそうだろう。それ以外に思い当たらない。さすが仕事熱心な匠馬だ。こんなときでも頭の中は仕事のことでいっぱいなのだから。

匠馬が普通にしてくれているのだから、ここは自分もと、気合を入れる様にパンと頬を張る。

「勘違いするな」

彼は社長で自分はただの秘書。昨夜は特別だっただけ。

忘れよう。忘れなきゃ――……。


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