陰キャの渡瀬くんは私だけに甘く咬みつく
「渡瀬ー! 踏ん張れー!」

「颯ー! 引き離せー!」


 たぶん、この球技大会中で一番の盛り上がりだと思う。

 それくらい周囲を巻き込んでの試合になっていた。


 あたしもこの試合があたしを取り合うものだってことを忘れて見入ってしまう。

 何だか颯くんに悪いから声を出しての応援は出来ないけれど、ハラハラドキドキしながら陽呂くんを応援していた。


 応援しながら、別の意味でもハラハラする。


 3セット目に入る頃にはさらに集中するためか単純に暑くなったのか、陽呂くんはパーカーを脱いで試合をしていた。

 長い前髪は全て濡れていて汗が飛び散るほどで……。

 分厚い眼鏡がまだ邪魔をしていたけれど、陽呂くんの整った顔立ちが僅かに分かるようになっていた。


「陰ヒロもああやって頑張ってるところはちょっとカッコイイかもー」

 なんて言葉が聞こえてきたときにはちょっとモヤッとしてしまったし……。

 陽呂くんがカッコイイことがみんなにバレちゃったら恋のライバルとか出てきちゃうのかな、とか考えちゃったり……。


 つまりは、そういう嫉妬するようなことにならないかとハラハラしていたんだ。

 陽呂くんがカッコイイってことはあたしだけが知っていればいいんだもん。

 そんな風に考えてしまう。
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