陰キャの渡瀬くんは私だけに甘く咬みつく
「やーだ」

 甘えるような声でそう言った陽呂くんは、あたしの前髪の辺りに唇を当てるようにして話す。

「何のために血吸うの金曜の夜にしてると思ってんだよ。ゆっくりするためだろ?」

 そうしてそのまま額や目じりに唇を落とした。


 そんな朝から糖度百%の甘い陽呂くんにドキドキするけれど、ずっとこのままでいるわけにはいかない。

 大体、今何時なのかも分からないし。


「ゆっくりするっていうのは合ってるけど、それは万が一あたしが血を吸われて具合が悪くならないようにでしょ?」

 陽呂くんはあたしの血だと少量で済むから、具合が悪くなることなんてないんだけど。

 でも念のためってことで相談して金曜日の夜にと決めたはずだ。


 あたしの正論に陽呂くんは不満そうに「そうだけど……」と呟いてから、指であたしの首筋をつつーっと撫でた。

「んっ」

「あと、これな?」

 突然の甘い刺激に声が漏れてしまうあたし。

 そんなあたしに満足そうに笑って咬み痕を指摘する陽呂くん。


 昨夜血を吸われたところは、陽呂くんがしっかり舐めて治療してくれたから血は流れていないし傷痕にもなってはいない。

 でも、深く牙を立てるからかやっぱり少し痕は残る。
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