陰キャの渡瀬くんは私だけに甘く咬みつく
「あの、陽呂くんに用ですか? 代わりますか?」

 そう提案したけれど、おばさんは『いいのいいの』と断る。


『伝えておいてくれればいいから。今日は安藤さんが来る日なんだから、ちゃんと戻ってきなさいよって』

「あ、安藤さん今日来るんですか?」

『ええ、良かったら美夜ちゃんも来なさい。安藤さん、美夜ちゃんのことも気にしていたから』

「はい、分かりました」


 それじゃあ、と言って通話が切れる。

 それを見計らったように陽呂くんはまたあたしを抱きしめた。


「終わったか? じゃ、もうちょっとこうしてよっか」

 そしてあたしの頭に唇を当てるようにして二度寝モードに入る。


「陽呂くん、ダメだよ? 今日安藤さんが来るんでしょう? 起きて!」

 回された腕を軽く叩きながら言うと、チッと舌打ちが聞こえた。


「……安藤さん、何でいつも土曜の十時に来るんだよ。せめて午後にしてくれりゃあ良いのに……」

 不満たらたらといった感じの陽呂くん。

 でも、安藤さんにはちゃんと会うつもりはあるみたい。



 安藤さんはハンター協会の人らしい。

 最初それを聞いたときは、陽呂くんが退治されちゃうの!? って取り乱しちゃったけれど、ハンターと吸血鬼の関係は今は警察と一般人みたいな関係なんだとか。
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