冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
そして、ニヤリと意地の悪い笑みを見せるとグラスの水をひとくち口に含んだと思ったらそのままグイッとその顔を近付けて、
「っっ、」
口移しで飲ませてくれた…。
ただ真っ赤になって言葉も出ないわたしを見て満足げに笑んだ仁さんはもうフェロモンだだ漏れで。
「まだ千聖が足りないんだが?」
「っ、仁さ…!」
荒々しくも愛情に溢れたキスを何度も何度も深く深く。
「まっ、て!まり子さんが、帰って来ちゃ…」
「まだここを出てそう時間が経ってないから帰って来ない」
仁さんの熱い唇がわたしのそれから首筋に移動して、チクリとした感覚とともに吸われる。
そして、その大きな手がわたしの服の中をまさぐり始めようとした。その時ーー、
ーーリンゴーン。
玄関のベルが鳴った。
「ほらっ!帰って来たじゃないですかっ!!」
慌てて服を直すわたしをよそに仁さんは怪訝な顔つきで唸(うな)る。
「帰宅してから戻ってくるにしては早過ぎる…」
ーーリンゴーン。
もう一度鳴るベル。
「…私が出よう」
仁さんが珍しく表情をかたくするから、ここで待つことになったわたしも自然と身構えてしまう。
玄関に消えて行った仁さんの事を待てども待てども帰ってこない。
遅い…。どうしたんだろう。
まさか、強盗とか!?
大変っ!
痛む頭を右手で押さえ、よたよたとよろめきながら玄関に向かうと見えたのは仁さんの後ろ姿と…女性?それに、あの小さな影は…
「パパぁーっ」
一瞬視界が真っ白になった。
パッ、パパだぁ!?!?