冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。

「あ、おねーたんもいるっ!」

仁さんの脚にしがみついていた小さな男の子がわたしに気付いて、とてとてと両手を広げながら走ってくる。

呆然とするわたしの脚に抱き着くその男の子。

「光輝(こうき)、ダメよっ」

凛とした綺麗な声と共に仁さんに隠れてよく見えなかった女の人が姿勢をずらして男の子の名を呼ぶ。

ーーとても綺麗な女性(ひと)、だった。

艶やかな黒髪を肩のラインで揃え、少しつり目な瞳も決してキツイ印象を与える事なく彼女の魅力を更に引き立てていて、シュッとした鼻も、赤いルージュを乗せた薄い唇も全てが大人の女性として完璧で。

自分とはあまりにも違って、全身の震えが止まらない。

「仁、この娘(こ)は?」

呼び捨て。

「妻だ」

「ーーえ、」

「嘘でしょ?」みたいな表情。

恋愛経験ないわたしだってわかるよ。このひと、仁さんの「元カノ」だ。

「とにかく今日のところは帰ってくれ。妻の体調が良くないんだ」

「そんなっ…!この子は貴方の子なのよ?話ぐらい聞いてっ」

貴方の子。それは即(すなわ)ち、仁さんの子供と言うこと。

「…私との間に出来た子供だと、どうして言い切れる?」

この冬の空気のような冷たい仁さんの声が玄関に響く。

言葉よりも冷たかったのはその目で。

感情全てを失ったような無機質な目で彼女を見ている仁さんは今にも彼女を殺めてしまいそうな感覚に陥ってしまう。

「逆算すると貴方と付き合っている時に出来た子供だと言うことになるのよ。あたしは、浮気なんてしてないし。そうすると、そういう事でしょう?」

仁さんの異変に気付いているのかいないのか。

彼女は彼女でとても堂々と強気でいる。




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