冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
「…仁さん。わたしは大丈夫だから。話し、聞いてあげよう?」
わたしの温度のない声に仁さんがハッとしたのがわかる。
「…千聖、」
「ただし、わたしも同席させてもらいますけど、それでもいいですか?」
「え、ええっ。構わないわ」
「仁さんもそれで構いませんよね?」
「あ、あぁ」
「では、どうぞお上がりください」
わたしは、自分がこの家の住人になってから初めて他人をテリトリーに入れた。
それは、初めて感じたどす黒く蠢(うごめ)く醜い感情。
嫉妬でもないそれは、きっとーーー。
ーー
ーーーー
「この子を自分の子供だと認知して下さい」
彼女はゆっくりと頭(こうべ)を垂れ、同時に髪の毛がサラサラと綺麗に流れる。
「仁にはこうして奥様がいらっしゃるのだから、婚姻関係を結びたいとかじゃない。ただ認知してくれるだけでいいのっ」
覚悟はしていたことだけれど、実際にこの話し合いをするのはかなりキツイ。
…実のところ、わたし達は初めてした時から一度も避妊をしたことがないのだ。
夫婦だし、想い合っているし、子供が出来ても育てられる環境と経済力と気持ちがあるから。
けれど、生命はなかなかこのお腹に宿ってはくれずに、嫌がらせかと思うくらい毎月同じ日に生理が来ているのが現状で。
それなのに、この人との間にはこうして子供が…。
悔しさと悲しさでジワッと目に涙が溜まるけれど、決して泣かない。泣くもんか。
「仁…」
「DNA検査をする」
「っ!」
仁さんのひと言で彼女の表情が一瞬にして強張(こわば)った。
「どうしてっ…!」
「瑠璃子(るりこ)。確かにキミとは何度も身体を重ねたが、そこに想いも魂も宿る事はない。それだけだ」
瑠璃子。それが彼女の名前。
何度も身体を重ねた。
容赦のない言葉に「やめて!」と心が泣き叫んだ。
聞きたくない。けれど、聞かなくちゃ。
仁さんを信じなくちゃ。
「とにかく、近いうちに検査しよう。勿論かかる費用は全て私がもつ。話しはそれからだ。帰ってくれ」
「え、ちょっと!仁っ!!」
席を立ち、リビングを後にする仁さんと入れ替わりで、帰ってきたらしいまり子さんが入ってくる。
「…どうぞお引き取りを」
いつもニコニコしているまり子さんが笑っていない。
笑っていないどころか、あの仁さんと同じ目を瑠璃子さんに向けていて、わたしは思わずゾクリとしてしまった。