冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。

「また、来るわねっ」

そう言って光輝くんを抱きかかえ、瑠璃子さんは我が家を去って行った。

「…千聖ちゃん、大事な時に留守にしてしまってごめんなさいね。いま温かいカモミールティー淹れるから、ソファーで休んでいてね」

優しい、優しいまり子さんのきもちが、今はただ辛いだけで。

「…要りません。ごめんなさい、少し疲れたので休んできます」

おかしいな。視点が全然定まらないや。

「…、……っ」

仁さんが何か言っているみたいだけど、全然耳に入ってこない。

わたしはロボットになったかのように無表情のまま自室のベッドにボブっと横になった。

途端に香る仁さんの匂い。

…瑠璃子さんもこうして仁さんの匂いを嗅いだりしたのかな…。

悔しい。悲しい。泣き叫びたい。

さっきまで感じていたそんな思いさえ、もう今は「無」だ。

なんなんだ?この状況は。

一体なにがどうしたと言うの?

わたしは、わたしはーーー

「ちさと、」

今度はちゃんと聞こえた。

仁さんの、声。

とても、苦しそうな、声。

どうして。

ゆっくりとこちらに近づいて来て、わたしの隣にゆっくりと腰掛けた。

その大きくて温かい手がサラリとわたしの髪をすく。

「…」

わたしは、何も感じない。

「…すまない」

仁さんの謝罪の言葉で、わたしの中の何かがパチンと弾けた。

「…なんで?なにを、謝るのです?」

ギギギと首だけ仁さんの方を向いて問うた。

なんで貴方はわたしに謝るの、と。

「キミの前で瑠璃子と関係があったことを…。もう少し言い方があったんじゃないかと思ってな」

「恋人とそういうことになるのは当たり前なことです」

「…軽蔑、するか?」

無機質なわたしの声とは反対に感情に揺さぶられているような仁さんの声。






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