冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
「どうしてーー、」
「わたしはあくまで家政婦としてあの家にいました。母親は室井さんおひとりで十分」
「それなら、これからも家政婦としてでいいからっ、」
「…千聖ちゃん。わたしの事を知った上でただの家政婦だと割り切って接する事が出来る?」
「っ、まり子はわたしにとって最初からただの家政婦じゃなかった…!初めかららお母さんのように思ってたっ。まり子さんが居てくれなきゃ、わたしっ」
「…千聖、落ち着きなさい」
「仁さん…!でもっ、」
「まり子さん、それはまり子さんにとってのケジメなんですか…?」
「えぇ。室井家に救われた頃から決めていた事です。わたしは自分が助かる代わりに貴方を手放した最低の母親です。そんなわたしが、いつまでも側に居たらいけない。…坊ちゃまと千聖ちゃんなら大丈夫。わたしも安心して身を引けます」
まり子さんの言葉をひとつひとつ噛み砕くように目を瞑り聞いていた仁さんがゆっくりとその目を開くと、
「…わかりました。わたしは貴女の思いを尊重します。千聖、帰ろう」
そう言って席を立ち、わたしにも席を立つよう促してくる。
「っ、嫌です!嫌ですっ!仁さん、まり子さん…っ!!」
わたしはまり子さんを諦められなくて必死で抵抗する。
「千聖。まり子さんが決めた事だ」
「嫌ですっ!わたしはっ、ーーっっ!?」
「千聖!?」
「千聖ちゃん!!」
グッと突然強い吐き気と眩暈に襲われ、そのままわたしの意識はプツリと途切れた。