冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。

ーー

ーーーー


「…ん、」

ぼんやりとした頭でゆっくりと双眸を開くと仁さんがすぐ傍にいてくれていた。

「目が覚めたか。気分はどうだ?」

「仁さん…。わたし…?」

「急に倒れて意識を失ったんだ。いま、医者がここに向かっている」

…そうだった。必死でまり子さんを説得している途中で眩暈に襲われて。

「こんなのただの貧血です。大丈夫…」

布団から上半身を起こそうとするも尚も気持ち悪くてなかなか起きれない。

「無茶をするんじゃない。もうすぐ医者が来る筈だから大人しく寝ていろ」

「でも、」

「坊ちゃま。お医者様が今ーー、千聖ちゃん、気が付いたのね」

「まり子さん、」

わたしが更に言葉を紡ごうとしたけれど、

「はいはい、病人はどちらさんかしらね?」

白衣を着た優しそうなおばあちゃんが割り込んできてしまった。

「あらあら、可愛いお嬢さんだこと。この村には若い子がもう居ないから新鮮だわ」

にこにこしながらわたしの元へ来て、

「殿方は出て行って頂戴」

「だがしかしっ、」

「坊ちゃま」

まり子さんに窘(たしな)められて仁さんは渋々部屋を後にした。

残ったのは、わたしと先生とまり子さん。

先生は聴診器を当て、次に脈拍、血圧、舌と目を確かめ、少しの沈黙の後、

「お嬢さん、生理はちゃんと来てるかしら?」

「生理、ですか。いえ、ここ2ヶ月程は…。でも、以前から不順なので」

「お手洗いまで歩けるようになってからでいいから、これで検査してみなさい」

そう言われて渡されたのはーー、

「これは…?」

「妊娠検査薬よ」

「…え?」

簡易型の妊娠検査薬。だった。

「そんなっ、わたし妊娠なんてしていません!」

「なぜ?」

「なぜって…」

仁さんのこと、言っていいのかどうか迷っていると、

「医者は患者の個人情報を他言したりしないわ。安心なさい」

包み込むようなおばあちゃん先生の温もりのある言葉を聞いて、決心する。

「仁さ…、主人には、子を作る事が出来ないそうなのです。だから妊娠なんて有り得ません」

「そう。…でもね、お嬢さん。子供は天からの授かり物なのよ?科学的にそう証明されたとしても、奇跡が起こる事だって有り得るわ」

「…奇跡、」

そんな事が本当に…?

「取り敢えず、検査してみなさい。待っていてあげるから」

「…はい」

フラフラっとよろけながら立ち上がると直様(すぐさま)まり子さんが支えてくれた。

それに礼を言うとふたりでゆっくり部屋を出て、お手洗いに向かう。仁さんが廊下で心配そうに駆け寄ってきたけど、検査薬をサッと隠して「トイレに行くだけだから」と制した。





< 78 / 80 >

この作品をシェア

pagetop