きみは溶けて、ここにいて【完】
「さっきから、ぼーっとして、どうしたの? 昼休み終わっちゃうよ」
一年生の時からクラスが同じの久美ちゃんだ。
私なんかに話しかけてくれて、友達をしてくれている優しい人。
きゅるんとしたツインテールを揺らして、首を傾げた久美ちゃんに、ドキリとして、大げさに首を横へ振った。
「なんでもない。久美ちゃんは、気にしなくていいよ」
「そう?」
訝し気な表情を浮かべた久美ちゃんに頷いて、お弁当の卵焼きを口に運んだ。
だけど、その後すぐに不安になってしまう。
久美ちゃんは、デザートのブドウゼリーを食べていて、もう何にも気にしていないような顔をしている。だけど、たった今した私の発言。“久美ちゃんは、気にしなくていいよ”って、もしかしたら、失礼な言い方だっただろうか。実は、嫌な気持ちにさせてしまっていないだろうか。
そう思ったら、卵焼きの味があんまり分からなくなり、「久美ちゃん」と咄嗟に名前を呼んだ。
「どうしたの?」
「……ごめん」
すぐに謝る癖がついたのはいつからか。
久美ちゃんは、きょとんとして、「え、何が?」と言った。本当に気にしていないみたいだ。
「なんでもない、ごめんね」と返事をする。
卵焼きの甘じょっぱさが、また自分の口の中に戻ってきて、ホッとした。