きみは溶けて、ここにいて【完】




 予想だにしなかったことばかり、森田君が言うものだから、どう返事をすればいいのか分からず、固まってしまっていたら、ごめん、とまた森田君が謝ってきた。


さっきから、たくさん謝られている。

森田君らしくなくて、
まるで、前の自分を見ているみたいで。



「謝りながら、伝えたいわけじゃなかったけど、でも、保志さんに、知っていてほしいと思ったから。いろんなことに、巻き込んで、悪かった。でも、やっぱり、何もかも、保志さんでよかったと思ってる」



 影君がいなくなってしまったことを、まだずっと怖がったままでいるのに、人にやさしい言葉をかけられる。

やっぱり、森田君は強かだと思った。

影君とは違うけれど、優しい人なんだ。


だけど、それだけじゃないから、苦しそうに笑っている。


森田君が私を好きだなんて、考えられないけれど、さすがにこの状況で疑いの気持ちをもつことなんて、できなくて。

ありがとう、とだけ慎重に返事をする。



 森田君は立ち上がって、「保志さんも。本当に、影のこと、ありがとう」と言った。



そして、また背を向けられる。
今度は、本当にそのまま森田君は、去っていった。




 ひとり、夕暮れに取り残される。



 影君の嘘と、解けていった後悔が心の中で混ざってゆき、本当の喪失感になる。


私たちは、
これから、を考えなければいけないんだ。



 ありがとう、と、頭の中で透き通ったテノールの声が再生される。

それは森田君のものなのか影くんのものなのか、分からなかった。

分からないまま、日が完全に暮れてしまうまで、私は花壇の隅に座って、じっとしていた。




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