きみは溶けて、ここにいて【完】
「林間学校の夜、保志さんが俺に、無理して笑わなくていい、って言ったときさ、自分の弱点のようなものを撫でられた気がした。それが少し、怖くて、痛くて、でも、真っ直ぐ胸にきた。保志さんと影は、少し、似てるんだよな。俺にはない考え方をする。もちろん、保志さんが、弱いって言ってるわけじゃないけど。でも、俺が大切にできないものまで大切にしようとすんだよ。それで、あの夜、保志さんのことを思う影の気持ちが、なんか分かってしまって」
ごめん。と、森田君は気まずそうに表情を歪めて、俯いた。
そんな風に、森田君に思われていたなんて、私は一つも知らなくて、ただただ驚いていた。
そのまま、俯いたことであらわれた彼の旋毛を見つめていたら、「共有しなかった」と、森田君が呟く。
「え、?」
「本当は、影と保志さんが会うはずだったのに。一緒に蛍をみたときの記憶を、影とは共有しなかった」
森田君は顔をあげて、一度、唇をぎゅっと横に結んでから、ゆっくりとまた、口を開く。
「ごめん、独り占めしたかったから」
「…………、」
「恋愛なんて、くそだと思ってたのに、知らない間に、少しだけ、保志さんに好意を抱き始めてる。たぶん、これが、好きということなんだと、思う。好き、だ。でも、いいんだ。知ってくれてるだけでいい。だって、分かってるし。保志さんは、俺より、影が好きだった。たぶん、影も俺の何倍も保志さんが好きだった。結局、影が、保志さんに告白したのかどうか、俺は、よく知らないけど」
影君は、あの夜のことをやっぱり、森田君とは共有しなかったみたいだ。好きだと言ってくれた。自分ができたきっかけを教えてくれた。
だけど、影君が記憶を共有しなかったのならば、それを、森田君に伝えることはしないでおこうと思った。