きみは溶けて、ここにいて【完】
もう途中から、自分なんかはそんなことを思う資格なんてないのに、とさえ思えずに、心から楽しんでしまっていた。
初めて会ったのに、なんだか、彼の隣は、落ち着くのだ。
歩いている途中で少し疲れてしまって、河川敷に座って一休みをした。
しばらくせせらぎと遠くの橋を渡る電車の音に、黙ったまま、耳をすませていたけれど、せせらぎの合間に、影君が、恐る恐ると言った風にまた話し始める。
「……文子さんは、自分が思っているより、いい人だと、僕は思うんだ。僕なんかに、そんなことを言われても、嬉しくなんてないかもしれないけれど、」
突然そんなことを言われるとは思わなくて、驚いた。それから、なんだか居たたまれない気持ちになる。
私は、誰かに褒めてもらえるような人間じゃないんだ。「……ありがとう」と、返事をした自分の声が、すごく情けのないものになった。
「でも、臆病な、……イエスマン、……で、私の、傷つけたくない、って、きっと、偽善」
そういった瞬間、影君は、申し訳なさそうに顔を歪めたから、あ、まずい、と思った。
油断していた。最低だ。気を抜いてしまったらいけないのに。
ほら、やっぱり、
棘なんてどこにでも潜んでいる。