きみは溶けて、ここにいて【完】
心なしか、目が潤んでいるように見えて、そこでようやく、私は、鮫島君のことを、思い出して、ハッとした。
もしかして、と自分が思ってしまったら、本当になってしまう気がして、予想が外れていることを願いながら、「……どうしたの?」と久美ちゃんに聞く。
だけど、願った時点で砕けていたようなものであったのだろう。
久美ちゃんが、そっと顔を近づけてきたので、私は耳を寄せる。
前とは違う。
悲しい予感しかない、ひそひそ話だった。
「……昨日、鮫島君に、振られちゃった」
やっぱり、そうだったんだ。
私は、「そっ、か」と、下手くそな相槌しか返せなかった。視界の隅で久美ちゃんのツインテールが揺れる。それでさえ、苦しい。
「鮫島君、彼女、ずっと前からいるんだって」
「………、」
「知っていたら、私、告白なんてしなかった」
久美ちゃんの悲痛な声に、胸が痛くなる。
久美ちゃんは、唇をぎゅっと結んで、しばらく何かを堪えるように顔を歪めていたけれど、次第に、目を潤め始めた。
それで、どうすればいいのか分からないままに、「……久美ちゃん、」と名前を呼んだら、とうとう泣き出してしまった。