俺がお前を夢の舞台へ
─コンコン


思いの外、廊下にノック音が響く。


「どうぞー」


気の抜けた返事が返ってきて、少しだけ心が楽になる。


……よし。


心の中で一呼吸おき、軽いドアをスライドする。


「…………」


時が止まったようだった。


蒼空はジッと私を見つめて動かない。


けれど、その瞳は大きく揺れていた。


「…えっと…久しぶり……」


なんにもない無機質な個室に佇む無表情な蒼空。


何を思っているのか分からないその表情が怖かった。


「これ…お花……。ここに置いとくね…」


今すぐ帰りたい気持ちをぐっと堪え、窓辺のテーブルに花束を置く。


そして、近くにある硬い椅子に腰を下ろす。


ベッドの横には心電図と車椅子。


他には何もない。
< 293 / 434 >

この作品をシェア

pagetop