鵠ノ夜[中]
そう言って手を挙げたのは、前川さん。
クラスの中でもどちらかといえば大人しいほうだけれど、みんなから好かれるタイプの女の子。前にレイちゃんの誕生日プレゼントを買いに行ったとき、ばったり出くわしたメンバーのひとりでもある。
「そうなの? 1年生?」
「ううん、2年生。たぶん御陵先輩も知ってると思うよ」
ふわりと笑うその表情に、特に嘘は見られない。
しつこいようだけれど、そもそも、こんな話で嘘をつく理由もない。頭の中でそんなことを考えていたせいか思わず黙ったことで、茲葉どしたー?と心配される羽目になってしまった。
「ううん、なんでもないよー。受験大変だなって思って」
「げ。ヤなこと思い出させんじゃねーよ」
けらけらとみんなが笑ってくれるこの空間が、ぼくはすきだ。
……っていうか。
そもそも、ぼくに、嘘を見抜く能力、なんか。
「あっ、ねえ、三嶋さん」
「何? 茲葉くん」
ほぼ自由時間と化していた5限目が終わり、打って変わってみんなが真面目に授業に取り組んでいた6限目。
睡魔と共に先生の授業を聞き流しながら、そのうちこの空間も終わりを迎えるんだと実感する。転校してきたばかりだけど、卒業までも残り短い。
そうやって考え込むのがぼくの悪い癖。
気が付けば授業は終わっていて、日直だったぼくと三嶋さんのふたりで、仕事を終わらせたあと。とあることに気づいて、帰る直前だった彼女を呼び止めた。
「あの。三嶋さんって、前川さんと仲良いよね?」
ぼくの質問に、唯一姉がいると教えてくれた女の子。
それ以上誰からも言及がなかったから、おそらくレイちゃんの質問に該当するのは前川さんだけなんだろう。