鵠ノ夜[中]
身振り手振りで誤解だと伝えれば、彼女はまたくすくすと笑って「冗談よ」と一言。
本当に勘違いしていたのかもと疑ったけれど、ただぼくのことを揶揄っていただけのようだ。……三嶋さん、思ってたイメージと違う。
「御陵先輩と同じ学校に行くの? 茲葉くん」
「うん? そうだねー。
ぼく以外の御陵の関係者もみんな通ってるから、目指すのはそこかなー」
まあ、結構頑張って勉強しないと、合格できないかもしれないんだけど。
……はりーちゃんとシュウくんが言ってたみたいに、本当にぼくだけ落ちたらどうしよう。
「私も目指そうかと思ってたの。
ほら、制服かわいいじゃない。グレーに緑のスカートとネクタイ」
「……、どこまで冗談なのー?」
「うん? 内緒」
ひらひら、ひらひら。
レイちゃんとは違うのに、まるで同じように、手のひらから擦り抜けていく。
「じゃあ、また明日ね茲葉くん」
「うんっ、ばいばーい」
彼女と昇降口で別れ、御陵家の送迎車へと急ぐ。
今日は日直だってことを伝え忘れたから、もしかしたら遅いと心配されているかもしれない。
まだ汗ばむ夏の陽気。たった七日で散ってしまう儚き命の残響。
ぼくだけが知らなかった、大切な人の真実。
だから今度こそ、見逃さないように。
「……あれ?」