玉響なる風は鳴る
全部浄化されたのを見届けた真冬は、開いていた扇子を閉じた。

刹那、悪霊を包んでいた氷が音を立てて割れる。そこには、悪霊の姿はなかった。

風音は扇子を閉じると、呆然としている葉月に近付く。

「葉月、大丈夫?怪我はない?」

そう言って、風音は微笑んだ。葉月は、その笑顔を見て顔を赤くする。

(……ほう。葉月は、風音に恋をしているのか……)

葉月の表情を見た真冬は、扇子をポケットにしまいながらそう思った。

「……真冬、その傷……」

葉月は真冬の腕に付けられた切り傷を見つけ、真冬の腕を掴む。

「……大丈夫。いつものことだ」

「駄目だよ。治療するから、動かないで」

葉月が片手で扇子を開くと、真冬を温かい風が優しく吹いてその風は真冬を包み込んだ。ゆっくりと、真冬の傷が塞がっていく。

「……」

その様子を、真冬は心の中で驚きながら見つめていた。

「……そういや、真冬のお母さんから……僕の家に向かってるって聞いたけど……」

「もう大丈夫……お母さんが、職場でたくさん野菜を頂いてね……それで、欲しいかどうか聞きに行っただけだよ。直接聞いた方が早いから」

「そっか」

そう言って、風音は苦笑した。
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