聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 翌朝はめずらしく寝坊をしてしまったため、玲奈は始業前のオフィスで簡単に朝ごはんを済ませていた。

「芦原」

 十弥の呼びかけに、玲奈の背中はびくりと揺れる。心を落ち着けてから、ゆっくりと振り向く。

「おはようございます、副社長」

 デートの件をなにか聞かれるかと玲奈は身がまえたが、彼はそんなことは知らないという顔で仕事の話をはじめた。

(いや、それはそうよね……自意識過剰すぎ)

 玲奈は自嘲気味にふっと笑って、彼の話に耳を傾けた。

「というわけで、重要なプロジェクトだ。しばらく忙しくなるが、よろしく頼む」

 開発途上国の鉄道敷設事業に和泉商事が出資をするという内容だった。正式に決まれば、海外事業の責任者である十弥はよりいっそう忙しくなるだろう。もちろん彼の担当秘書である玲奈も同じだ。
少し前の彼女ならこれ以上のハードワークはと、思わず嫌な顔をしていたところだろう。だが……。

「かしこまりました。微力ではありますが、プロジェクト成功のために私も尽力します」

 玲奈は本心からそう答えていた。

(仕事に逃げているだけだとわかっているけど…)

 当分の間、恋愛はお休みしたい気分だった。悠長にかまえていられる年齢でもないことはわかっているが、仕事に忙殺されていればなにも考えずに済む。それは今の玲奈にはありがたいことだった。
 それに、十弥のもとで働くことに楽しさを感じはじめてもいた。彼は秘書を自身のお世話係だとは考えていない。プロフェッショナルを求めてくる。今までの比ではないほどの苦労があるが、そのぶんやりがいと充実感があった。









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