聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 二十四日、クリスマスイブ。

 接待会場となる神楽坂の料亭に向かうため玲奈と十弥は一緒にタクシーに乗りこんだ。軽く肩がぶつかり、爽やかでほのかに甘い彼の香りが玲奈の鼻をくすぐる。どきりと跳ねた自分の心臓に玲奈は驚く。

(いやいや、違うから。副社長にドキドキするとか絶対にないし)

 社のリーダーとして有能なのは認めるが、当然といった顔で無理難題を押しつけてくる困った上司だ。それ以上の存在では絶対にないはずなのに……。
 彼から意識をそらすように玲奈は窓の外に目を向ける。赤と緑で華やかに飾りたてられた街をカップルや家族連れが楽しそうに歩いている。ツリーのてっぺんで輝く銀の星にも負けない、彼らのキラキラした笑顔が玲奈には眩しすぎた。

(クリスマスかぁ)

「イベントごとが好きなのか? 意外だな」

 十弥は横目でちらりと玲奈を見て、そうたずねた。

「接待の日程を伝えたときも、クリスマスがどうとか言ってただろ」

 いやみではなく、純粋な質問のようだ。

「あれは一般論です。わざわざイブの夜に接待の飲み会をセッティングすることはないかと思いまして」

 玲奈のほうは若干いやみ混じりに答えたが、十弥はけろりとした顔だ。

「子どもや学生じゃあるまいし、社会人にとっては普通の平日だ」
「まぁ、そうかもしれませんが」
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