聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 玲奈はまた視線を街へとうつした。車がスピードをあげて走り抜けても、見える景色はクリスマス一色だ。玲奈はぽつりとこぼす。

「……むしろ大嫌いです、クリスマス」

 友達や恋人と楽しく過ごした思い出もあるにはあるが、それ以上に子ども時代の寂しかった記憶が根強く残っている。クリスマスと聞くと、胸に苦いものが広がるような気がするのだ。十弥は「なぜ?」とは聞かなかった。その気遣いを玲奈はうれしく思った。

 超高級料亭に、似つかわしくない下品な笑い声が響く。会食相手の登坂会長は……きたんなく言ってしまうと昔ながらのエロ親父といったタイプだった。白いタイトスカートの玲奈の腰をねっとりとした手つきで撫でると、ガハハと大口を開けて笑う。

「いやぁ、さすがは天下の和泉グループの御曹司だ。いい秘書をつけてるねぇ」

 彼はニヤニヤしながら含みのある視線を十弥に送った。「どうせ愛人なんだろう」とでも言いたげな目をしている。十弥は徳利を持って腰を浮かせると、玲奈と登坂の間に割りこむように座る。
 元々、玲奈と十弥は登坂の向かい側の席だったのだが彼が勝手に玲奈の隣に移動してきたのだ。同行している登坂の男性秘書は彼には逆らえないようで、ヘラヘラと曖昧な笑みでやり過ごしているだけだった。
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